マンションとペットについて
ほとんどのマンションではペットの飼育に関し、規約や細則で何らかの定めがあると思います。いくつか問題点を確認してみましょう。
(1)管理規約にペット飼育可否について明記していない場合(細則には明記されている場合も含む)
管理組合は、管理規約に定めがなくても、ペットの飼育そのものが区分所有法上の「共同利益背反行為」となる場合、当該ペット飼育の禁止請求をすることができます。しかし、これは実際に危害等が発生した場合に初めて禁止請求可能のため、いわば事後的な解消を期待するほかないということとなります。
そこで、(どのマンションでもあるように)事前に犬や猫の飼育を禁止するか否かについて、管理規約などでそれを明記しておくことが必須となります。
この点、管理規約で全く定めることなく細則だけでペット禁止規則を設けている場合、二つの点が問題となりえます。
一つ目は、普通決議でペット禁止規則の改定が可能となってしまい不安定となること、二つ目は差し止め等の要求をする場合の具体的な根拠条文が管理規約ではなく細則となるため違反行為の程度が相対的に低くなりかねないことです(なお、※注1)。
国交省標準管理規約は、18条関係のコメントで『犬、猫などの飼育に関しては、それを認める、認めない等の規定は規約で定めるべき事項である。基本的な事項を規約で定め、手続等の細部の規定を使用細則に委ねることは可能である』としています。これは区分所有法30条を受けてと考えられます。同30条は『建物又は(中略)の管理または使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律で定めるものののほか、規約で定めることができる』と規定しています。ペットの飼育を認めるのか/認めないのかについては、まさに建物の使用に関する区分所有者全員に関係しる重要事項に該当しますので、上に記述した二つの問題点を回避するためには、管理規約で定めておくべき事項ということとなるでしょう。
※注1 判例は、国交省標準管理規約コメントのような規約/細則の役割分担について厳密なものを求めていないといえます。例えば、管理規約で『対象物件の使用については,別に定める使用細則を定めるものとする。』とだけ定めておき、使用細則の禁止行為条文中に『他の区分所有者に,迷惑または危害を及ぼすような動物(犬,猫,猿等)を飼育すること』と規定している事案でも、規約・細則のセットを根拠とする差し止めを議論の余地なく認めています(東京地裁平成23年12月16日判決など)。次に説明する(2)にも関連しますが、規約で委ねられた使用細則で、ペット飼育禁止の内容が十分に読み取れるならば、区分所有者の遵守義務もまた明白であるため、規約とそれを委ねた細則のセットで差し止めを認めることに何ら不都合はないと考えているからでしょう。
(2)内容があいまいな場合にどう読み取るか
① 「犬、猫など鳴き声、悪臭など他の居住者に迷惑又は危害をかけるおそれがある動物」
② 「鳴き声、悪臭など他の居住者に迷惑又は危害をかけるおそれがある動物」
③ 「鳴き声、悪臭など他の居住者に迷惑又は危害をかける動物」
④ 「鳴き声、悪臭など他の居住者に危害をかける動物」
①の管理規約があるマンションは、犬、猫ともに一切飼育禁止とみなされます。「おそれ」とは具体的、限定的なものを要求しません。「私の家の〇〇は、鳴き声が静かだ」とか「声が外に響くのはせいぜい1ヵ月に1回で迷惑ではない」等の弁解は通じないこととなります。
②についても、典型的なペットかつ鳴き声を出す、においを発するといった事情から犬や猫は一律禁止されていると読み取ることは可能と考えます。東京地裁平成19年10月4日判決事案は、使用細則で『居住者に迷惑または危害をおよぼす恐れのある動物を飼育すること(ただし,盲導犬・聴導犬・介護犬および居室のみで飼育できる小鳥・観賞魚は除く)』はしてはならないと定めていました。判決では、文言解釈と実際の運用から、盲導犬を除く犬の飼育は一切禁止と判示しました。ただ、この事案は、細則に盲導犬や小鳥を除くなどの但書きがあったことも踏まえての文言解釈であったことや、運用面も事実認定して、判断をした点に注意が必要です。
③・④は、「おそれ」という言葉が入っていません。文言解釈だけでは、不明瞭で、実際に迷惑をかける可能性が高い動物だけを規制しているようにも読み取れなくもありません。このような条文の場合には、実際の運用、この規約/細則が作られた経緯、当時の総会議事録、建物の構造等を確認し、果たして何をどこまで規制している趣旨なのかを見極めなければなりません。いずれにしても、このような極めて曖昧な条文の場合、早急に運用に沿った規約または細則の改正が必要となるでしょう。
(3)ペット飼育禁止改正と「特別の影響」(区分所有法31条1項後段)
特別の影響とは?
区分所有法は、規約改正や廃止する場合、それが一部の区分所有者に「特別の影響」を受ける場合、 その承諾が必要としています。この「特別の影響」を受けるといえるのか?という点は、規約改正の際に色々な場面で検討対象となる大変重要な問題なので、最初にこの点を整理します。
まず、規約改正等による影響がすべての区分所有者に公平におよぶ場合には承諾不要となります。
そして一部の区分所有者だけに影響を及ぼしたとしても、「特別な影響」というためには、規約の改正等の必要性と合理性と影響を受ける一部の区分所有者の不利益とを比較して、一部の区分所有者が受忍(≒我慢)すべき程度を越える場合に限られるとされています。
それでは、①新たにペット禁止の規約を設けた場合、②禁止動物を増やした場合、③あるいは不明瞭な規約を改正した場合に、禁止となったペットを飼っている区分所有者の承諾を要するのでしょうか?
この点については、『飼育禁止規定が、当該建物の利用状況に照らして合理的であれば、特別な影響に該当しない』と考えられています。ややもってまわった言い方となりますが、例えば③の場合で、従来の運用に則って禁止を明確化する趣旨で改正したとすれば、違反行為者ともいえるペット飼育者の承諾は不要であるとの帰結になります。①、②はいくつかの、参考になる事例があります。
東京高裁平成6年8月4日判決は、規約を改正して犬を含むペット禁止の規約を新設した事例で、マンションの居住者の中に犬を飼育している区分所有者がいる場合に管理規約を改正して動物の飼育を禁止する規定を新設することは、「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼす」ものとはいえないとしました。この判例は、自閉症の家族の治療上必要であるとか、犬が家族の生活・生存にとって客観的に必要不可欠の存在であるなどの特段の事情がない限り、特別の影響を及ぼすものといえないと判断しています。
このように一般的には、ペット飼育規約を改正する場合に、その影響を受ける飼い主が「特別の影響を受けるもの」として承諾が必要とされるケースは、非常に限定されるといえるでしょう。