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外壁などに配管目的で穴を開ける行為

 マンション外壁が共用部分であることは議論の余地がなく、この外壁に穴をあけることは、専有部分の利用のために必要であっても「共用部分の変更」(区分所有法17条1項)に該当し、管理組合の承認が必要です(総会で区分所有者および議決権の4分の3以上の賛成が必要)。

 この理解を前提としつつ、今回のコラムでは事例をあげて問題点を整理していきます。

事例1 私のマンションは、1階部分の専有部分だけが1つの区分所有権となっています。そして1階の区分所有者は、これまで何年もの間、1階部分全体が店舗経営されています。現在所有者は約1年半前に取得して営業をしているのですが、開店前の内装工事の際、冷房室外機と室内機をつなぐ冷媒管を設置する目的で無断でマンション外壁に穴を開けたようです。管理組合として、管などの撤去と開口部の修復請求が可能でしょうか。

設例2 私の住むマンションは、昭和40年代に建築された歴史あるヴィンテージマンションです。約40年前に、ガス給湯器を取付工事を行う際に換気上の安全のため配管を外部を通す工事が必要となりました。外壁に穴をあけることはできないと理解していましたので、ベランダの窓枠に小さな穴を開けて工事を行い現在に至ります。そして40年後の今になって、理事会が、共用部分を管理組合に無断で変更したこと、そして窓ガラス全面取り換えを含めた計画修繕に支障が生じることを理由に、給湯器の撤去と穴を塞ぐことを求めています。この求めに応じなければならないのでしょうか。

 設例1は復旧を求める立場からの、設例2は復旧を求められている立場の相談となっています。共通する問題点もありますが、以下問題点に沿って説明していきます。

(1)誰がマンション共用部分の外壁に穴をあけたのか【特に設例1で問題】

 「誰が」共用部分に穴を開けたのかについては、特に設例1のように所有者や賃借人がたびたび変わっている場合だけでなく、設例2のような築年数が古いマンションの場合でも「穴あけ工事を行ったのは自分ではない、住み始めた当初から空いていた」と反論することが起こりうるのです。

 この点については、管理組合側で、マンション建築当時の図面、売買取得時の重要事項説明書、今回や過去に組合宛に提出された内装工事時の建築図面や施工状況、googlemapから確認可能な過去の建物外観、施工業者への聞き取りなどによって立証していくこととなるでしょう。

* なお、以前の所有者が開けたものであったとしても区分所有法8条・7条1項を根拠として売買等で取得した者は、修復義務までも承継するという考え方もありうる(東京地裁平成3年3月8日判決は、承継の有無は主要な争点とならず、紛争当事者間に争いのない事実として、修復義務の承継を肯定している)

(2)いつ開口工事を行ったのか【特に設例2で問題】

 いつ、その工事が行われたのかという点も問題となります。

 居住者等の穴あけが、区分所有法や管理規約に違反していたかどうかは、今現在の区分所有法や管理規約に従うのではなく、その当時の区分所有法や管理規約に従って判断されるためです。

 設例2は、40年前に、窓枠の一部を開口し、管を通したケースです。そのため、40年前の管理規約で窓枠が規約で共有部分であったのか確認しなければなりません。現在の標準管理規約は『窓枠・窓ガラスを専有部分に含まれないものとする』と定めていますので、現在はそれに倣った管理規約が大半です。しかし、昔のマンションになればなるほど、分譲当初は管理規約の整備が不十分で、規約共用部分が明示的に定められていないとか、分譲当初の規約が残されていないということすらあります。

 そもそも窓枠・窓ガラスは、管理規約によって共用部分とされているにすぎず=規約共用部分)、外壁、バルコニー、廊下など建物の構造上法律で当然に共用部分(=法定共用部分)とされているものと異なります。そのため、設例1と異なり、設例2の場合、40年前の管理規約あるいは分譲時の売買契約書などにさかのぼって、そもそも窓枠が管理規約上共用部分とされていたのかを確認しなければならないのです。そこで管理規約の制定、改正状況を過去から確認していく作業が重要となります。

 事例2において、管理組合側としては、例えば20年程度前に一新された管理規約に窓枠が共用部分と定められていたとしても、40年前に窓枠が共用部分であったことを立証するには到底足りないこととなります。

(3)穴あけ行為を『共同利益背反行為』(区分所有法6条1項)として原状回復請求(同57条1項)が可能か【設例1、設例2ともに問題】

 区分所有法6条1項の共同利益背反行為は『不当毀損行為(建物の保存に有害な行為)』と『不当使用行為(建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同利益に反する行為)』に大きく類型化されます。

 設例1では、現在の1階部分の所有者が、冷房設備のために法定共用部分の外壁を穴を開け貫通させているのですから共用部分を毀損していることは明白です。また外壁を貫通させれば建物の安全性に影響を及ぼすおそれもあります。よって『不当毀損行為』に該当します。さらに、総会特別決議を経ることなく共用部分を貫通させて専ら自己の利益のために使用しているのですから、法にも規約にも反する『不当使用行為』にも該当します。設例1において、管理組合は、1階部分の所有者に対して『配管を取り外し、穴を塞ぐ工事をせよ』との要求をすることが法的に可能という帰結になります。

 設例2では、(2)で説明した通り、そもそも窓枠が共用部分に該当するのかが、過去に遡った資料収集の点で大いに問題となります。そして仮に規約共用部分に該当したとしても、外壁と異なり建物の構造部分そのものとはいえないので、「共同利益背反行為」に該当し、原状回復が求められるのか(原状回復しなければならないのか)か慎重な判断を要する問題となります。

 共同利益背反行為は、一般的に二つの類型化されることは説明した通りですが、それらに該当するかどうかは、個別具体的に判断されます。この判断基準について東京高裁昭和53年2月27日は、『共同の利益に反する行為にあたるかどうかは、当該行為の必要性の程度、これによつて他の区分所有者が被る不利益の態様、程度等の諸事情を比較考量して決すべきものである。』と判示しています。

 設例2では、①窓枠が規約共用部分であったとしても専用使用権が設定されていることが一般的ですし、しかも開口部分は窓枠に収まる程度の小ささなので他の区分所有者に不利益を被る程度は低いといえそうです。そして②換気上の安全のために40年間も同じ目的で開口されていることから必要性の程度が高いともいえそうです。このような事情から、設例2は、共同利益背反行為に該当せず、即座に原状回復に応じなければならない帰結とはならない可能性も十分にあるのではないでしょうか。

 ただ、事例にあるようなマンションの計画修繕の支障の内容・程度や換気上の安全確保のための代替措置が容易かつ比較的安価であるならば、原状回復に応じなければならない場合もありうるでしょう。

(4)権利濫用(民法1条3項)の反論が成り立つのか【特に設例1】

 設例1で、共同利益背反行為に該当するとしても、「なにも実害がない」「理事長に内装工事届け出をしたときには問題視されなかった」「他の居住者もやっている」「長年問題にされていない」ことを理由とした権利濫用(信義則違反)の抗弁が成り立つ余地があるのでしょうか。権利濫用(信義則)は、様々な事情を組み合わせて、例外的に認められることもありますが、一つ一つ分けて有効な事情となるのか検討していきましょう。

 まず、「なにも実害がない」という主張について、実際に被害が生じていなくとも、外壁に穴を開ければ建物の安全性に被害が生じるおそれがあることは間違いありませんし、そもそも共用部分の変更に総会決議が必要であることは建物の保守維持のため極めて基本的なルールであるためその原則は遵守されなければならず、現実の被害の有無に重きをおくべきではありません。判例も、壁柱の穴あけ事例において「実害がない」との被告側の主張を排斥しています(東京地裁平成3年3月8日など)。

 「理事長への届出のときに問題視されなかった」という主張も、そもそも理事長は共用部分の変更について決定権を有していませんし、外壁に穴を開けるためには総会の承認が必要であることは自明の理なので、理事長が誤導した事実でもない限り権利濫用の抗弁で重要視されることもないでしょう。

 「他の居住者もやっている」という主張も権利濫用の抗弁で重要視されることはほとんどないでしょう。このような主張を認めてしまえば法律や規約そのものが成り立たなくなるからです(多数の区分所有者が違反している中、他の意図で当該所有者を狙い撃ち的に原状回復を求めるようなケースであれば別問題ですが)

 「長年全く問題にされていない」という点は、権利濫用を肯定する方向に働く要素となりえます。しかし、事例2のように極めて長期間経過し、しかも建物の安全性に何も影響を与えない箇所の開口であるならばともかくとして、事例1のようなケースで「長年」とは到底いいがたいでしょう。

 なお、「長年黙認されている」という反論に関連して、原状回復義務が『時効によって消滅している』という反論も一応想定されるところです。しかし、区分所有法57条等に基づく撤去・原状回復請求は、法律または規約によって認められた所有権に基づく権利(=物権的権利)なので、時効消滅することはありません(東京地裁平成18年8月31日判決参照)。