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マンションの電力一括受電について(最高裁判決)

1 電力一括受電とは

 電力一括受電とは、マンション居住者が各戸で電力契約(低圧単価で購入)するのではなく、管理組合がマンション全体で一括契約(高圧単価で購入)することをいいます。単価の安い高圧電力で契約することによって、特に共用部分の電気料金を大きく削減可能となるメリットがあります。

2 既存マンションの導入手続

① 理事会が導入を検討
 導入検討のために、一般電気事業者の協力のもとで実施される現地調査を経て、複数の高圧一括受電事業者から提案書を取り寄せます。理事会は、各業者から提出された提案書に基づきそれを比較検討します。電気料金削減率だけではなく、各事業者の経営情報や導入実績、導入の条件、契約期間、サポート体制といった評価項目により事業者の評価を行い、業者選定を進めます。

② 住民説明会
 電力会社は、全住戸が個別契約を解約し、一括受電切替の申込書(同意書)を提出しない限り、一括受電への切り替えを受け付けません(*1)。導入には全住戸の協力が不可欠ですから、理事会は、総会前に住民説明会を開催し、高圧一括受電サービスの導入を周知し、電気料金の削減効果やメリット・デメリットの説明、質疑応答やアンケートなどを経て、導入の実現可能性を見極める必要があります。

*1 一般電気事業者との電気契約の解約と高圧一括受電事業者への電気契約の切替に同意をしない居住者が1 戸でも存在する場合は、一般電気事業者の電気供給約款に基づき、高圧一括受電サービスの導入に必要な一般電気事業者への工事申請ができない

③ 総会決議
 高圧一括受電サービスの導入のためには、電力会社所有の変電設備を撤去し、新たな管理組合所有の設備を設置します。この交換工事だけであれば普通決議で足りるといえますが、それに伴い規約共用部分や変電設備設置場所の無償使用条項削除などの規約変更が必要ですから、実際には特別決議が必要となります。

④ 契約締結
 総会決議が可決されると、選定された高圧一括受電事業者が管理組合や居住者(区分所有者)と契約手続を行うこととなります。そのときに、高圧一括受電事業者は各居住者に対して、各戸と一般電気事業者との電気契約の解約の手続と、高圧一括受電事業者とのサービス利用契約の締結の手続(利用申込書の回収)を求めます。そのため、高圧一括受電サービスの導入には、総会での多数決だけではなく、実際には全住戸の同意が必要となります。

3 導入に際しての問題点(最高裁判例の紹介)

 管理組合として導入の可否を決めるだけであれば、多数決による総会決議で可能ですが、契約締結にあたって、全住戸の解約と利用申し込みを必要とするため、導入には事実上住民の全員一致が必要です。そうするとほとんどの住民が賛成しているにもかかわらず、わずかな反対住民がいる場合には導入をすることができません。拒否者に対して旧契約の解約と新契約の契約を強制することが可能なのでしょうか。この点に関連した近時の最高裁判例を紹介します。

【事案の概要】

 団地管理組合法人(544戸の団地型マンション)が高圧一括受電契約への切り替えの総会決議を行うとともに、団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けることなどを定めた細則を定めたにもかかわらず、解約申入れをしない建物所有者2名に対して、原告(組合員の一人)が、割安な電力を受けられない損害を被ったと主張して不法行為に基づく損害賠償請求を求めた事案です。これに対して最高裁判所は、総会決議や細則に基づく個別契約の解約申し入れをする義務はないとして、不法行為が成立しないと判断しました。

【最高裁の判決内容】

 最高裁は、①高圧受電方式への変更をすることとした一連の総会決議のうち、住民に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は、専有部分の使用に関する事項を決する事項であって、区分所有法に定める共用部分の管理や変更の決議としての効力はないこと、②決議とは別に細則で解約申入れを義務付けることを定めたとしても、その部分は、区分所有法30 条1 項の「区分所有者相互間の」に該当しない以上、同項の規約として無効としました。

 最高裁が②のように判示した理由は、2つです。一つ目は、「区分所有者各専有部分で使用する電力の供給契約を解約しないことによって、それだけで直ちに他の区分所有者等の専有部分の使用や共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないこと」、二つ目は、「高圧受電方式への変更が専有部分の電気料金を削減を目的としていて、変更されないことによって専有部分の使用に支障が生じるとか、共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないこと」です。

(参照) 区分所有法30条1項  建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる

【判決の影響】

 この最高裁判決によって、専有部分の一括受電契約締結の前提となる、個別契約の解約申入れを総会決議や規約によって義務付けることはできなくなりました。電力が自由化され住民側にも選択肢が与えられている現在、導入を検討している理事会は、事前の説明会やアンケートなどによる準備や導入の見極めがより一層重要になったといえます。