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水漏れ事故に関する問題点の整理

 特に築年数が古いマンションでは給排水管の老朽化などが原因で水漏れ事故がおこることが多くあります。

 自分の部屋が他所からの水漏れ被害にあって汚損した場合、誰に対して損害賠償請求責任を追及できるのでしょうか。

1 民法717条1項による責任追及

 民法717条は、土地工作物等の占有者や所有者の損害賠償責任を定めた条文です。「土地の工作物」の「設置または保存の瑕疵がある」(=通常備えるべき安全性を欠いているとか、修理などに不完全な点がある)ことによって他人に損害を発生させた場合、その工作物の占有者が一次的に損害賠償責任を負います。そして、占有者が損害防止するのに必要な注意をして責任を免除される場合でも、所有者は過失の有無を問わず責任を負うと定めています。老朽化したブロック塀が倒れて下敷きになった被害者に対して、管理者または所有者が損害賠償責任を負うことが典型的な例です。

 この土地工作物責任は、被害者側が瑕疵さえ証明すれば、少なくとも土地工作物の所有者は責任を負うこととなります。そのため、被害者の立場からすると、責任追及手段として非常に有効です。

 そして、給排水管は、建物と一体となった附属設備である限り、民法717条1項の「土地の工作物」に該当します。そのため、その設置または保存に瑕疵があった場合には、占有者(=居住者)または所有者(=区分所有者)が損害賠償責任を負うこととなります。

 そこで、漏水原因となった給排水管の欠陥部分はどこか(≒誰の所有なのか)、要するに、漏水部分が専有部分なのか(⇒その専有部分の所有者らの責任)/それとも共用部分(⇒区分所有者全員の連帯責任)なのかによって、責任主体が決まることとなります。

2 欠陥箇所はどこなのかがわからない場合 

 事故原因が給排水管の欠陥であることは間違いないけれど、その欠陥箇所がどこにあるのか不明な場合があります。マンションの場合、専有部分と共用部分がわかれているうえに、その構造も複雑であるために、原因がわかっていても、原因箇所がわからない場合もあります。

 このような場合を想定して、区分所有法9条は「建物の設置または保存に瑕疵があることにより他人に損害を生じたときは、その瑕疵は、共用部分の設置又は保存にあるものと推定する」と定めています。これによって、他所から水漏れ被害を受けた居住者は、排水管の水漏れによって損害が発生したことを証明さえすれば、実際の漏水箇所が特定できなくとも、責任追及が可能となります。その場合の責任の追及の相手方は、管理組合(または区分所有者全員)となります。

3 給排水管の帰属の問題 -専有部分なのか/共用部分なのか-

 欠陥部分が特定されている場合でも、その部分が専有部分なのか共有部分のいずれなのかという問題があります。

 給排水管の場合には、具体的にどの部分までが専有部分なのか区分所有法上も明確ではありません。

 判例(最高裁平成12年3月21日判決)は、スラブ貫通配管構造(床スラブを貫通し、階下の建物の天井裏に枝管を通している構造。古いマンションで多い)の枝管から漏水したことにより階下の住民に損害を与えた事例で、枝管の位置関係が上の階の住民は階下からでなければ点検・修理を実施することが不可能な場所であることを理由、枝管を共用部分であると認定しました。このように、給排水管の帰属の問題は、枝管か本管かという、誰が利用をしているのかという点だけではなく、建物の構造と給排水管の設置場所、それに伴う点検修理の容易さ等を総合考慮して判断されています

4 給排水管の帰属の問題 -規約によって範囲と費用負担を明確化する-

 専有部分と共用部分の区別は、区分所有法1条、2条3項4項、4条2項によって定められているものの、給排水管の場合は法律で明確に解釈できないため、判例が一定の基準を示しています。

 そこで、多くのマンションでは、給排水管について、どの部分までが共用部分(=管理組合が管理)で、どの部分からは専有部分(=各区分所有者が管理)と規約で定めています。みなさんも自分のマンションの規約をもう一度確認してみましょう。

 この共用部分と専有部分の範囲を規約で明確化するとともに、管理修繕費用の負担や水漏れ事故が起きた場合の責任の所在について規約で定めておくことも、争いを防止するための一つの方法です。

5 管理組合は、民法717条1項の占有者か

 被害者が民法717条1項を根拠として、責任追及をすることを想定しつつ、説明をしてきましたが、そもそも管理組合は民法717条の「占有者」に該当するのかどうかという議論があります。

 土地工作物責任は、第一次的に土地工作物の占有者が責任を負い、占有者が必要な注意を怠らなかった場合には、二次的に所有者が責任を負います。

 管理組合は、共用部分を管理する責任を負っていますから、管理者≒占有者と考えれば、管理組合は717条1項の責任主体となるといえそうであり、そのような見解も有力です(コンメンタールマンション区分所有法など)。

 この点について真正面から争われた最近の判例があります。

 東京高裁平成29年3月15日判決は「管理組合は、共用部分について民法717条の占有者にあたらない」と判示し、原審前橋地裁高崎支部が「あたる」とした判断を取り消しました。判決は、「管理組合は、共用部分を管理しているが、管理責任があるところに、占有があるとはいえないのであり、占有者であるとみるには無理がある」と述べています。なお、この事案は、上告不受理で終了しています。

 この結論をとる場合、管理組合は、土地工作物責任を原因とする損害賠償責任を負わないこととなります(債務不履行責任や、その他を原因とする不法行為責任を負うことはあります)。あくまで各区分所有者が占有者または所有者として(不真正)連帯責任を負う結論となります。

 土地工作物責任追及のケースで、マンションの共有者全員が不真正連帯責任を負う結論は、居住者間で不公平、不都合を生む可能性が危惧されます(被害者は、最もお金がある区分所有者一人を狙い撃ちにして請求することもできてします。また被害者側としても相手方を一人に絞れないデメリットもある)。そのため、共用部分の瑕疵を見こして適切に損害保険に加入しておくことは非常に重要となるでしょう。