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水漏れ事故の問題点の整理②

前回水漏れ事故が起こった場合、誰が損害賠償責任を負うのか、その根拠について説明をしました。

今回は、事故が発生した場合の責任追及の前提となる、事故原因の調査についてをコラムを書きます。

1 水漏れ被害が発生したら

 被害者は、初動として、水漏れ発生箇所と原因の調査を行うこととなります。

 前回のコラムで説明したとおり、水漏れ箇所が専有部分なのか、共用部分なのかによって、責任主体が変わってくるからです。また、水漏れ原因が、上階の居住者の不注意によって発生したのか、それとも前回コラムの事例説明のように排水管の不具合によって発生したのかによって、民法の責任原因が異なるためです。

 まずは、水漏れの原因をつくったと思われる上階の居住者に対して、水漏れで被害が発生したことと、その原因調査について協力を求めることとなります。水漏れの原因が、上階の居住者の過失(たとえば浴室の排水溝に髪の毛が詰まった状況で浴室の水があふれ出た、あるいは洗濯機のホースの接続がゆるく使用中に抜けて水があふれ出たなど)が原因であることが判明すれば上階の居住者に対して責任を追及していくこととなります。

 また、上階等住民の過失が原因でなく、被害者住戸の専有部分の給排水管の不具合でもない場合には、区分所有法9条を根拠として、共用部分の管理責任を負う管理組合に対して水漏れの原因の究明を求めることとができます。

2 上階の居住者が立ち入りを拒否した場合

 区分所有法6条2項は、『区分所有者は、その専有部分または共用部分を保存し、または改良するため必要な範囲内で他の区分所有者の専有部分または自己の所有に属しない共用部分の使用を請求することができる』と定めています。

 この法律を受けて標準管理規約は、管理組合が、管理を行うために、必要な範囲で他の区分所有者の専有部分または専用使用部分への立ち入り請求権を確保し、立ち入り請求を受けた区分所有者は正当な理由がなければ拒否できないと定めていいます(標準管理規約23条1項、2項参照)。おそらく大半のマンションの管理規約には、この標準管理規約と同趣旨の規定があると思われます。

 漏水被害を受けた被害者は、区分所有法6条2項を根拠として、立ち入りを拒否している区分所有者または占有者(ex賃借人)を相手方として、立ち入りを要求することが可能です。

 そして、相手方が、あくまで立ち入りを拒否した場合、力づくで(又は勝手に)入ることは許されませんが

① 裁判を起こして、『相手方の承諾に代わる判決』(民法414条2項但書)を得たうえで立ち入ることが可能です。

② さらに立ち入りを不当に拒絶したことを理由として損害賠償請求が可能です。

 判例では、マンションの給水管からの漏水事故について、点検修理のためには構造上、階上部分への立ち入りが不可欠であるにもかかわらず、階上住民がそれを拒絶した事例で、階上住民の違法行為(不法行為成立)を認め、財産上損害27万4880円のほかに慰謝料7万円の損害を認定した事例があります(大阪地裁昭和54年9月28日判決)。

 また、管理組合からの請求事例となりますが、管理規約に基づいて共用部分の排水管更新とアスベスト除去工事のために被告の専有部分への立ち入りを要求したところ拒絶された事例で、承諾に代わる判決として、①〇〇の各工事のために必要な範囲内で専有部分に立ち入り、使用する権利を有することの確認、②被告が原告による各工事を妨害してはならないこと、③原告が(規約に基づく)弁護士費用等の損害賠償金の支払いを命じる判決が出されています(東京地裁平成27年3月26日判決)。

 上階等の区分所有者などが調査に非協力的な態度を示す事例はままあり、そのときに訴訟までは行きつかないとしても法律および規約によって立ち入りや調査を要求する根拠を明示し、あるいは損害賠償責任が拡大しかねないことを説明することによって相手方の態度が軟化する傾向があります。

3 調査費用の負担者は誰か

 水漏れの原因をつくった者が相当な範囲で調査費用を負担することとなります。ただ漏水事故の原因が判明するまでの間、被害者側が調査費用を事実上立て替えるリスクがつきまとうこととなります。

 この点はケースバイケースであるものの、上階・下階の専有部分を開口可能な範囲で調査しても判明しない場合には、区分所有法9条の共用部分の瑕疵規定を根拠として、管理組合(あるいは受託管理会社)に対して調査を求めることが適切です。管理組合側は一定の調査費用を管理費から支出することが可能ですし妥当です。そして、管理組合が加入している保険から調査費用が支出にされる場合もあります。管理組合の調査結果が「原因不明」であれば、共用部分の瑕疵として管理組合から加入する保険金によって損害が補償される流れに近づきますし、上階その他の専有部分の瑕疵が原因であればその調査報告をもとにして、上階に対して責任追及が可能となります。