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借地権付マンションの地代についての問題

 借地権や地上権付きマンションは多いですが、敷地を所有している場合と異なる独自の問題があります。

 今回は「地代」についての問題点の一部について整理してみます。


1 地代の支払は可分債務か不可分債務か(地代債務の法的性格)

 新築分譲時の売買契約によって区分所有者は建物の持分に応じた土地の借地権(または地上権。以下、借地権で統一します。)を分譲業者等から承継します。各区分所有者は、借地権を準共有し持ち分に応じた地代を地主に支払います。

(1)可分債務であるとの考え方

 地代を可分債務と考えるならば各区分所有者は地主に対して各自の持分割合に応じた地代を支払えば足りることとなります。この考え方は、地代を負担する理由が借地権の割合的持分の設定(分譲時の売買契約など)にある以上、その対価も持ち分割合に限られるべきであることや、地主が1人の区分所有者に対して全員分の地代を請求できるとする結論が余りに不都合であることを理由とします。なお、東京地裁平成 76 7日判決は、地上権付き区分所有建物部分の事案で、区分所有者の地上権の対価である地代支払債務について、自己の有する地上権の持分割合に対応する地代を支払えば足りると判示してこの考え方をとっています。

(2)不可分債務であるとの考え方

 地代を不可分債務と考えると地主は一人の区分所有者に対し地代を全額請求でき、誰かが地代を延滞すればその分を他の区分所有者に請求できることとなります。その反面、一人の区分所有者の地代延滞を理由として、地主が借地契約を解除するには、他の区分所有者にも催告し、これらの区分所有者に対する借地関係を一括して解除して建物全体の収去と土地明け渡しを請求しなければならないことなります。この不可分債務説は、共同賃借人の賃料債務が性質上の不可分債務に属すると考える最高裁判例を前提としたうえで「形態上一個の建物維持のための土地利用という統一的給付の対価という性質を持っているから性質上不可分である」との考え方を基礎としています。

(3)いずれが妥当か 

 共同賃借とは異なり区分所有者は持分割合に応じて権利の設定を受けていますし、(2)のように不可分債務と考えると理論上一人の区分所有者に全員分の地代を請求できてしまいマンションの実態から著しく不都合です。一方、建物の全部または一部の分譲を予定して借地権が設定されたマンションの事案であれば、地主にとって地代が細分化され、分割されることは想定の範囲といえるでしょう。よって、可分債務であると考えることが妥当と考えます(私見)。

 なお今年41日施行前の民法428では、性質上可分であっても合意によって不可分債務とされることもあるため、この点について留意が必要です。

 旧民法428 
 債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。
 新民法428
 次款(連帯債権)の規定(第433条及び第435条の規定を除く。)は、債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する。

2 地代増額請求と減額請求について

(1)区分所有者全員に対して増額の意思表示が必要

 土地の地代が不相当となった場合には、地主は将来にむかって地代の増額請求が可能です(借地借家法11条)。

 この場合、地主は、区分所有者全員に対して増額の意思表示をしなければなりません。たとえば区分所有者B以外の全員に増額意思表示を行ったとしてもBにその効果がおよびませんし、そもそも請求を受けた者との関係でも増額請求の効力が生じません。

 この考え方はで検討した地代債務の法的性格が不可分債務であると考えをとれば当然に導かれます(最高裁昭和54119日判決は、賃貸人が共同賃借人に対し賃料増額の請求をした事案で、共同賃借人の地代の支払いは不可分債務であることを前提に『賃借人の全員に対して増額の意思表示をすることが必要であり、その意思表示が賃借人の一部に対してされたにすぎないときは、これを受けた者との関係においてもその効力を生ずる余地がない』と判示します)。

 なお、地代の法的性格を可分債務と考えたとしても、借地人によって地代が異なるとすれば権利関係が複雑となり、持ち分割合とは異なる地代が生じる不都合が生じるので一律に処理すべきであること、そもそも分譲前は一つの借地権設定契約であったを理由として、同じ結論を導くことができます。

(2)管理組合や管理組合法人に対する増額請求は有効か、無効か

 管理組合や管理組合法人は、借地権設定契約の当事者ではありませんから、増額請求の相手方となりません。地主が管理組合や管理組合法人に対して増額請求通知をしても、所属する組合員(区分所有者)に対して意思表示をしたこととはなりません。

(3)各区分所有者による地代減額請求

 争いなく不可分債務とされる共同借地人の事例であっても地主への減額請求は保存行為(252条但書)として一部の借地人が独立して行使できるとされます。よって、地代支払債務の法的性格をいずれに考えるにしても理論上、個々の区分所有者が地主に対してそれぞれ減額請求できる帰結となります。しかし、個々の区分所有者が自由に減額請求できるとすれば、地主側の手続の煩雑さに加えて、借地権の持分割合とは異なる地代が生じることともなります。この結論は増額請求を個別に認めない趣旨とも一致しません。これを回避するため、地代減額請求については保存行為であることを理由に管理組合や管理者(理事長)が代理行使可能とすることを管理規約で定める、あるいは総会決議によって地代減額請求行使を管理組合に委ねることが適切といえます。

(4)調停、訴訟の当事者

 地主が区分所有者を相手方として地代増額請求調停の申立てや訴訟を提起する場合、その全員を必ず一つの裁判手続に乗せなければならないことではありません(いわゆる固有必要的共同訴訟ではない)。全員に対して増額請求を行ったうえで、増額合意ができた当事者を裁判手続から除くことは可能と考えます。

 ただし、管理組合は、地代増額請求や地代減額請求について調停や訴訟の当事者にはなりえません。借地権は個々の区分所有者と地主との間で発生する権利義務の問題であって共用部やで団体の管理に服する問題ではないからです。管理組合や管理組合法人には当事者適格(当事者として訴訟を追行し、本案判決の名宛人となるべき立場)がないので、事実上管理組合が交渉口になっていたことからそのまま管理組合を相手方とする地代増額調停や被告とする地代増額請求訴訟をおこす場合、被告適格がないとして訴えが却下されて二度手間になるリスクをはらみます。


 借地権付マンションは、管理組合が地代を徴収して管理組合から地主に支払っている場合が多いですが、その法的根拠や滞納の場合の諸問題や、借地契約の更新対応、増改築や建替えの際の承諾の問題などもあります。

 借地権付マンション管理組合から借地権についてのご相談があれば当事務所にご連絡ください。